わたしたちが生きていくうえで必要不可欠な水。日本ではどこでも蛇口をひねれば、透明で安全な水が出てくるのが当たり前ですよね。
その安全な水道水も地域によっては、塩素のニオイが気になることもあり、そのままでは飲めないからミネラルウォーターを買っているという人もたくさんいます。
水道水にはなぜ塩素を入れるのでしょう?塩素にはどのような役割があるのでしょう?
毎日使う水だからこそ、もっと水のことを知り賢く利用するために、ここでは水道水と塩素の関係についてご紹介していきます。
川の水が水道水になるまで
水道水の原料となる水は、川や沼、ダムなどで採水されます。もちろんそのままでは病原微生物やごみ、不純物などが多く含まれているため、この段階では飲むことはできません。自然の水を安全な水道水にするために、さまざまな除去処理を行います。どのように処理されて水道水になるのか、順番に見てみましょう。
川の水が水道水になるまでの流れ
このように、水道水はたくさんの処理を行うことで、病原微生物や体に害を及ぼす成分、ごみなどを取り除き、安心で安全な水として私たちに届けられています。
水質について
水道水の水質基準は水道法で定められています。水質基準の調査項目は下記の2つの観点により定められています。
- 人の健康の保護
- 生活に利用する際に障害を発生させない
水質に関する検査が義務付けられている項目は51項目あり、水道水として使うには計測値が基準以下になっている必要があります。
水質検査は水道事業者が行い、項目ごとに決められた頻度(毎日〜月1回)で基準値を下回っていることを確認します。
残留塩素
残留塩素に関しては、水道法施行規則によって定められており、蛇口から出る水道水に基準値以上の塩素が残るように義務づけられています。
残留塩素が基準値以上あることで、水道水の殺菌消毒が適切に行われている証明となります。残留塩素は基準値以上あればいいわけですが、高ければ高いほど良いというわけではありません。残留しすぎるとニオイが気になるため、水質管理目標値として上限が決められています。
塩素ってなに?塩素の役割とは?
水道水やプールの消毒に使われる塩素。学校では化学の周期表で「Cl」と習ったのを覚えている人もいるのではないでしょうか?
塩素はとても強い漂白作用と殺菌作用があります。そのため病原微生物(病原性大腸菌O157など)の殺菌やニオイをとることもできます。
日本では塩素の漂白殺菌作用を利用した商品が、たくさん販売されています。
身近なところでは家庭用漂白剤や除菌剤などがあります。またウイルスや細菌による感染に、細心の注意を払わなければならない病院でも多く利用されています。
家庭用漂白剤などにはよく「まぜるな危険!」と書いてあります。漂白剤や塩素系の洗剤を他の洗剤と混ぜると有毒な塩素ガスが発生するためです。それだけでなく、漂白剤などが皮膚に付くと皮膚を溶かしてしまう作用もあります。
少しこわいイメージを与えてしまったかもしれませんが、塩素は私たちにとって身近な存在であることを理解してもらえたかと思います。
すでにお伝えしましたように、自然界の水には様々な細菌が含まれており、それらを殺菌消毒するために微量の塩素が使われています。
でもやっぱり微量とは言え危険なのでは?と不安になる人もいますよね。具体的にどれくらい人体に影響を与えるのか次章で詳しくご紹介していきます。
残留塩素の体への影響とは?
残留塩素って体に悪いのか?体への影響について説明します。
残留塩素の体への影響は?
水の殺菌消毒に使用する塩素の濃度は、人体に影響のないように厳密に調整されています。このため、普通の人が日常で使う分には何も影響がないと言われています。
しかし、まれに皮膚が弱い人などに影響が出ることもあるようです。どのような影響があるのか、具体的な例を見ていきましょう。
皮膚
髪の毛はタンパク質からできています。残留塩素はタンパク質を壊してしまうため、キューティクルが変化してしまい、髪の毛がパサつく原因の一つと言われています。
髪の毛は再生能力がありませんので、残留塩素によって一度傷んでしまうと元の状態に戻ることはありません。
髪の毛
髪の毛はタンパク質からできています。残留塩素はタンパク質を壊してしまうことがありキューティクルが変化してしまいパサつきの原因の一つと言われています。
髪の毛は一度傷んでしまうと再生能力がないので傷んだままとなるようです。
残留塩素の基準値は?
すでにお伝えしましたように、蛇口から出る水の中に残っている塩素の残留量は、水道法で基準が規定されていています。
水道水に基準値以上の塩素が残っていれば、水道水が確実に殺菌消毒されていると判断され、安全であることの証明となりす。
・基準値:0.1㎎/L以上……殺菌消毒に必要な濃度
・基準値:1㎎/L以下……体への影響などを考えて設けられた上限の目標値の濃度
WHOのガイドラインでは残留塩素の基準値が5㎎/L以下となっているため、日本の残留塩素の基準値は世界的にもかなり厳しく設定されているのがわかります。こういうところで、日本の水の安全が守られています。
カルキ臭いって言うけど「カルキ」って?
水道水の塩素臭のことを「カルキ臭い」と言ったり聞いたりしたことがありますよね。なぜ塩素臭のことをそのように言うのでしょう?
カルキというのは石灰のことで、語源はドイツ語で石灰を意味する「クロールカルキ」にあります。
石灰と塩素にどう関係があるの?と思うかもしれません。実は石灰には塩素が含まれているものがあり、その石灰は塩素のニオイがするわけですが、細かなことを気にしない人たちは、「これは石灰のニオイだ」ということで、そのニオイのことをカルキ臭と呼ぶようになりました。
当然ですが水道水も塩素のニオイがしますので、「水道水のニオイ=カルキ臭」となり、特に塩素の匂いが強いときに「カルキ臭がする」と言うようになりました。
水道水のカルキ抜きは必要?カルキのメリットデメリットとカルキ抜きの方法
残留塩素を除去する方法
残留塩素は水の安全を守るのには必要ですが、私たちが口にするときにはすでにその役割を果たし終えていますので、飲む直前にはなくなっているほうがいいですよね。
完全にではありませんが、実は残留塩素を水道水から除去することは可能です。その方法について紹介します。
ビタミンC
喫茶店やレストランなどで、水にレモンの輪切りを入れているところを見たことはありませんか?それは、レモンの香りがするのでさわやかになるということだけでなく、ビタミンCの塩素を分解する働きを利用して、お水をおいしくするために行われています。
レモン果汁や粉末のビタミンC剤などを塩素除去用のビタミンCとして利用できます。今は100%のレモン果汁がスーパーなどで売られていますよね。コップ1杯に1滴入れるだけで残留塩素を分解し、カルキ臭を取り除くことができます。水1Lでも2〜3滴で足ります。
残留塩素を除去する方法としては、これが一番安価でおすすめです。ただし、レモンの香りがついてしまうので、使用用途が限られてしまうという欠点もあります。
熱
水はカルキ臭いのに、熱いお茶にすると塩素のニオイが気にならないということに気づいている人もいるかと思います。お茶の香りで消されているだけでは?と思うかもしれませんが、実際にはすでに塩素が取り除かれた状態にあります。
残留塩素は熱にも弱く、水道水を沸騰させることで除去することができます。お茶を入れる前に沸騰したお湯のニオイを嗅いでみてください。水道水とは明らかに違うのがわかるはずです。
塩素を除去するポイントは「ふたをせず5分ぐらい沸騰させる」ことです。ふたをすると塩素がそこに留まってしまいますので気をつけましょう。
このように熱を加えるだけで塩素は簡単に除去できますが、ちょっと水を飲みたいだけというときにお湯を沸かすのは面倒ですよね。沸騰するまでに時間もかかるので、いつでも使える方法ではありません。
活性炭
活性炭とは冷蔵庫などに入れ脱臭用に使われたりする炭のことです。この炭を利用して残留塩素を取り除いているのが浄水器です。活性炭は残留塩素を吸着して取り除いてくれます。
少しコストをかけてもいいのであれば、浄水器を取り付けても良いでしょう。浄水器のカートリッジは不純物を取り除くフィルターも一緒になったものが多く、よりきれいな水を手に入れることができます。
しかし活性炭は残留塩素を取り除く能力に限界があります。またフィルターも汚れてくるため、交換期限をきちんと守らないとカートリッジが劣化して、有効な効果が得られないので注意しましょう。
浄水器はたくさんの種類が売られていますが、カートリッジの品質やどれだけろ過できるかなどに注意して購入してください。どれがいいかわからないという人は、大手メーカー製の商品を選んでおきましょう。
また活性炭を用いたシャワーヘッドも売られています。髪のパサつきや皮膚が弱い人は、そのようなシャワーヘッドを使って残留塩素を除去した水を使用するのもおすすめです。
紫外線
バケツに入れた水を放置しておいて、金魚や、メダカなどを飼育するための水として使うことがあります。
塩素は太陽光に含まれる紫外線で分解されるため、水をバケツなどに汲み置きして、日光に6時間以上当てると除去できるようです。
外に出しておかないといけないので人の飲料水には使えませんが、ペットの飲み水や金魚などの水槽の水に適しています。
ただし、温度が高い状態で放置すると雑菌が繁殖しやすいので注意しましょう。
残留塩素を除去した水は
残留塩素を除去した水は殺菌消毒効果がなくなっているので、菌が繁殖しやすくなっています。
料理や飲用として使用する場合は、菌が繁殖しないように冷蔵庫などの低温の場所で管理して、できるだけその日のうちに使い切りましょう。
ミネラルウォーター
水道水より飲用に適しているイメージのミネラルウォーターですが、本当にそうなのでしょうか?ミネラルウォーターの特徴について紹介します。
ミネラルウォーターとは?
ミネラルウォーターとは、主に地下水を原水とするナチュラルウォーターにミネラルを追加したものです。その名前からミネラルが豊富に含まれていると思われがちのようですが、魚や大豆製品と比べると、含有量はかなり少量です。
以外と思う人もいるかもしれませんが、ミネラルウォーターの水質基準の項目は18個しかありません。水道水の水質基準の項目は51個なので、水道水のほうがかなり厳しく管理されています。
ミネラルウォーターと水道水の大きな違いは、塩素が入っているかいないかです。ミネラルウォーターには塩素が入っていないため、カルキ臭がなくおいしく感じます。
しかし水道水は安全性のために塩素が入っていていますし、水質基準もミネラルウォーターより厳しく設定されています。このため、安全重視で選べば水道水、味を重視で選べはミネラルウォーターといったように使い分けるのが一般的です。
ミネラルウォーターの種類
どこのスーパーやコンビニでも、たくさんの種類のミネラルウォーターが売られていますよね。
すべて同じに思えるかもしれませんが、実はミネラルウォーターは農林水産省のガイドラインによって、4種類に分類されています。
ナチュラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター、ミネラルウォーター以外の飲める水
水源が特定されていて、必要以上の物理的・科学的処理をしてないもの
ナチュラルミネラルウォーターを加工してミネラルなどの調整を行ったもの
ナチュラルウォーターの中で鉱化された地下水の原水

スーパーやドラッグストアで汲む水
専用の容器だけを購入し、あとは水を汲み放題になる装置を設置しているスーパーやドラッグストアが増えています。
この汲み放題の水も種類がいくつかあります。
- 水道水を簡単なフィルターでろ過してミネラル分を加えたもの
- 水道水を電気分解してつくられたもの。アルカリイオン水やマイナスイオン水と呼ばれているもの
- RO水と呼ばれているもの
この装置で作られた水は英語表記を略して「RO水」と呼ばれています。RO水はミネラル分まで除去しほぼ不純物が無い状態の水ですので、「純水」に近くなります。
ミネラル分がないので味はほとんどしませんが、コーヒーや紅茶、料理などに利用すると素材の味が活かされて、おいしくなると言われています。
RO水を作る装置ではミネラル分も除去されますが、おいしくするために最後にミネラル分を添加したRO水もあります。
このように「スーパーなどで汲める水」はいろいろな種類の水があり、利用する際はその装置がどの種類の水を提供しているのか確認しておきましょう。
ウォーターサーバーの水
健康志向や食の安全性への意識が高い人が増え、家庭に水を宅配してもらうサービスも人気が高いようですが、ウォーターサーバーにどのような水が使われているのか気になりませんか?
ウォーターサーバーの水は下記の2種類に分類されます
ウォーターサーバーの水
- ミネラルウォーター
- RO水
ウォーターサーバーのRO水も、そのままだとまったく味がなくおいしくないため、処理の後にミネラルを人為的に添加されているものが増えています。ウォーターサーバーを利用するときも、きちんと水の種類を確認しておきましょう。
日本の水道水が安全なのは塩素のおかげ
川や沼の水にはたくさんの病原微生物やごみが混ざっています。その水を水道水として安全に飲めるようにするにはどうしても塩素の力が必要です。
塩素で殺菌消毒をしないとお腹を壊したり、感染性の病気になったりすることもあります。日本では残留塩素の基準は厳しく管理されているため、体に害を及ぼすほどの塩素は残留していません。
しかしカルキ臭は多くの人が感じていますし、体に影響のない濃度でも敏感に体が反応してしまう人たちもいます。そのような人は、塩素を除去する方法を取り入れたり、用途に合わせてミネラルウォーターを活用したりするなどの工夫を行ってください。
日本のように、どこへ行っても蛇口をひねれば透明で安全な水が出てくる国はあまりありません。せっかく安全な水が届くわけですから、賢く水道水と付き合っていきましょう。